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子どものとき、道ばたの神さまはどこの辻にもいらっしゃった。 年を経て探してみたら、ずいぶんお仲間が減っていた。 小さな生きものと同じ‥‥‥そう、でも、負けないよ♪
by march_usagi
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牧水と酒と父(父の三十三回忌に寄せて)

わたしがまだ幼かったころ、父はわたしを連れてよく飲み屋にゆきました。

たいてい休みの日の昼飯どき‥‥‥散歩と称するお出かけです。

a0278809_10544353.jpg

白木のカウンターに明るい光、むかい合わせに白い割烹着のきれいな女のひとがいて、銚子の首をつまんでいます。

「坊ちゃんは?」と訊かれてうなずくと、

小ぶりの盃に湯気のたつお酒をついでくれました。

父はにやにや笑いながら自分の盃をかたむけます。


三十三回忌もすませ、ふだん父が意識にものぼらなくなったこのあいだ、

めくっていた歌集のページに目がとまりました。


<白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ>


若山牧水です。

ふと記憶がよみがえって‥‥‥あ、この歌は父からきいた歌だった。


中学校以降、

わたしは父と外出することがなくなりました。

しぶとい反抗期のあとは高校紛争と学生運動の季節があり、親と口をきくことのない日々がつづいていたのだと思います。

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冷たい息子をよそに、

父は晩酌にひとり杯をかさねます。

もっともそれで機嫌がわるいわけではなく、ときに歌など口ずさみ、

「酒はしづかに飲むべかりけれ」の心など勝手に講釈するのでした。

この歌はそうしてわたしの記憶に棲みついた。


学生運動の季節も去り、

わたしが家庭をもったころに父は身体をこわします。

a0278809_10553941.jpg

胸をひどく痛めて、入退院をくりかえすようになりました。

好きだった酒もほとんど断つことになります。

なので、ようやく大人同士の酒が呑めるようになったのに、外で酒席をもつ機会はなかった。

わずかに浅草の駒形か暮六つでの数回の記憶しかありません。


牧水の歌をひもといていたら、懐かしい歌がまた出てきました。


<人の世にたのしみ多し然れども酒なしにしてなにのたのしみ>

<それほどにうまきかと人のとひたらばなんと答へむこの酒の味>


どちらも父から聞いて憶えた歌です。

父は牧水を読んでいた♪


<わがいのち空にみちゆき傾きぬあなかすかなり遠ほととぎす>


一日一升

酒をこよなく愛した牧水ですが、酒毒に犯され短い生涯を閉じることになります。


酒を禁じられた牧水が、家人に隠れて盗み酒をする歌‥‥‥


<足音を忍ばせて台所にわが酒の壜は立ちて待ちをる>

a0278809_10560525.jpg

酒呑みのいやしさは、

まず下戸のかたには理解できないところでありましょうが、


牧水同様 酒を断たれた晩年の父には、

この歌が、おかしくも哀しくも心にしみとおったに違いないと思うのです。


<かたはらの秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつかしきかな>


by march_usagi | 2019-04-13 00:00 | 秘密の本棚 | Trackback | Comments(2)
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Commented by otyukun at 2019-04-14 21:09 x
懐かしい名前ですね。
若山牧水。
文学青年ではなかったので多くは知りません。
詩歌に全く興味がありませんでしたが、学生時代友達になった中には何人か居りました。
やはりその人間性に深みがあって今も付きあいがあります。
文字は付き合えば付き合う程人間の奥行を深化させてくれる様です。
Commented by march_usagi at 2019-04-15 08:58
otyukunさま
若いとき詩歌は身近なところにあったのですが、働いているうちに散文的なことしか頭にはいらなくなりました。
ようやく今、歌や詩をひもとく気になっています。
詩歌は、とりわけ和歌は、深くわたしたちの心に根付いていたのだと、いまさらながら気づいています。