妹の力と斎場御嶽‥‥‥沖縄②
柳田国男の学業が称賛に値するのは云うまでもありません。
でもそれにしては、
柳田の文章はとりとめがなく、あたかも文学のようにうつくしい‥‥‥
日本の南の島々をつづったこの2冊の本は、とりわけやさしさにあふれていました。
この国の古い信仰のかたちを、
『古事記』や『日本書紀』でまとめられる以前の心のありようを、
柳田は南の島々の伝承や、ひとびとの習俗、語りからひろっていきます。
柱となるのは‥‥‥妹(いも)の力
漁撈や狩猟、厳しく危険な男の労働、
家や部族の明日をになう子どもたちの成長、
田や畠、採取をともなう家族のつつがない暮らしをまもる、
女性の神聖な力への信仰です。
原始、神は女性に宿った
神は男たちの姉妹の口をかりて語った
琉球では古来ノロと呼ばれる神女がこの役を担いました。
知念半島の沖合に浮かぶ久高島‥‥‥
12年ごとに
加入儀礼のイザイホーが神女たちによってとりおこなわれました。
妹の力は、琉球のすべての人々にしみとおっていました。
王族の女性からただ一人えらばれる聞得大君(きこえおおきみ)は、ノロたちの最高位をしめ、王と王国を神の力で守護します。
聞得大君の即位儀礼たる「御神下り」(おんあらくだり)のおこなわれたのが、この斎場御嶽(せーふぁーうたき)でした。
ここは聖域のなかの聖域‥‥‥
神職の最高位が女性であるならば、しかるべくこの地は男子禁制の場でもありました。
「妹の力」は古来わたくしたちの信仰の根元にあって、
伊勢の斎宮や賀茂の斎院の存在もこれにふくめられる。
皇族のえらばれた子女が神官の最高位をつとめ、国家の鎮護をつかさどっていたときが本土にもあったのです。
さらにいえば、この国の最高神がアマテラスという女神であり、
『魏志倭人伝』に記された古代の王が卑弥呼という女性だったことにも思いはいたる‥‥‥
日々くりかえされる暮らしのなかで、
女性のもつ聖なる力を、かつてこの国のあらゆる階層が信じていたのでした。
そんなことに思いをはせて御嶽をあるきます。
沖縄の午後でした。