愛欲のカジュラホ
どうしてこうも過剰なのだろう!
話には聞いていましたが、カジュラホの寺院を飾る彫刻群のすさまじさには、文字通り圧倒されます。
特に目をひくのは過激な性愛のミトゥナ像‥‥‥
これでもかというようにたたみかけます。
禁欲的な方ですと卒倒してしまうような表現が、白昼の屋外に延々と露出します。
いったいこれは何なのか?
ガイドのMさんは、
「国を富ませるためには、たくさんのひとが必要。産めよ増やせよとセックスを奨励したのですよ」
とおっしゃるけれど、
きっとそんな単純な話ではないと思います。
一般的な解釈としては、性の呪力、魔力、生産力、邪悪なものから世界を守る力、あるいは破壊力としての性、‥‥‥なんてことが云われるのでしょうが‥‥‥
ふと思いだしたのが、宮本常一さんの『忘れられた日本人』でした。
1960年に出版されたこの書のなかで、宮本さんは明治の終わりころまで、対馬や南河内では「歌垣」の風習が残っていたと記録しています。
お若い方に「歌垣」と云ってもピンとこない方が多いと思いますが、一年のうち限られた日の夜、男女が歌を詠みあい、自由な恋愛をする祭りのことで、それは当然奔放なセックスをともなったものでありました。
同書を解説した本の中で、網野善彦さんは、さらに中世の文学にもよく出てくる寺院への独り身の女性の「参籠」と云う儀式にも言及し、
神仏の前では世俗の縁が切れ、日常では許されない性の営みが公然化されたと推測します。
ひょっとしてアジアでは、限られた条件ではありましょうが、神仏の前での男女の自由な交合が儀式として存在していたのかもしれない‥‥‥
妄想めいた思念が浮かんでくるのも、熱帯の暑熱のせいでしょうか。
それにしてもこのセクシーな曲線‥‥‥1000年を経たものとはとても思えない。
<アンコールワット テヴァタ>
時代的には、カンボジアのアンコール遺跡群とそれほど変わらない時期に建設されているはずなのですが、
神秘性は別として、写実性、彫りの技術において、こちらご本家のほうが一段高いレベルを見せているように思えます。
上村勝彦さんの著作によれば、かつてインド神話の主役であったヴァルナやミトラは次第にその姿をかくし、やがてヴィシュヌとシヴァの両神がヒンドゥーのもっとも主要な神の座にのぼってゆくのだとか‥‥‥
ここカジュラホは、そのヴィシュヌとシヴァ両神の相並ぶ寺院群でもありました。
猪は、ヴィシュヌ神が水中から大地を救いあげたときにとった姿‥‥‥
ナンディとよばれるこの牛は、ご存じシヴァ神の乗り物です。
それにしても日本の寺社を見慣れたわたしには、このヒンドゥーの聖域はひどく荒々しい。
「聖なるもの」とはそもなんなのか、
なにかひどく根源的な問いがかけられたような‥‥‥そんな気がした一日でありました。
by march_usagi
| 2013-05-01 00:00
| 海の外そぞろ歩き
|
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Comments(4)
凄まじい彫刻ですね。
時々旅行記などで紹介されちらっと目にする事はありますが、随分丹念に撮影された様で。
やはりこういったものには興味津々、年齢を問わずですね。
日本でも明治以降の西洋文化の影響で性に対するダブーが性道徳として広がりましたが、元々は夜這い等性に対してはおおらかだった様ですね。
昔、小学校高学年の時、有馬温泉へ町内のリクレーションで行った事あります。
男女の入口は別でしたが、中は長く繋がっている混浴でした。
恥ずかしくて前を隠すのに困ったものです。
おおらかなのが良い事なのかは判断しかねますが、男としては良い様な気がしてしまいます。
時々旅行記などで紹介されちらっと目にする事はありますが、随分丹念に撮影された様で。
やはりこういったものには興味津々、年齢を問わずですね。
日本でも明治以降の西洋文化の影響で性に対するダブーが性道徳として広がりましたが、元々は夜這い等性に対してはおおらかだった様ですね。
昔、小学校高学年の時、有馬温泉へ町内のリクレーションで行った事あります。
男女の入口は別でしたが、中は長く繋がっている混浴でした。
恥ずかしくて前を隠すのに困ったものです。
おおらかなのが良い事なのかは判断しかねますが、男としては良い様な気がしてしまいます。
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march_usagi at 2013-05-07 09:31
otyukun様
あまりに堂々と展開されると、むしろこれが普通で健全のように思えてまいります。ただ、やはり珍しい。他では観ない景観です。ヒンドゥーには「カーマスートラ」もありますし、ある意味ではこれが文化としての伝統なのかもわかりませんね。
あまりに堂々と展開されると、むしろこれが普通で健全のように思えてまいります。ただ、やはり珍しい。他では観ない景観です。ヒンドゥーには「カーマスートラ」もありますし、ある意味ではこれが文化としての伝統なのかもわかりませんね。
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YAGA
at 2013-05-13 20:35
x
久々に書き込みいたします。
インドに行った友人から噂には聞いていましたが、すごい彫刻ですね(-_-;)
武蔵多摩の国にも「くらやみ祭り」という夜這いの風習がありましたが、ここまであけっぴろげじゃなかったですもんね。。。
お国変われば、伝統・文化(特に「性」に関しては)大きく違うというのを実感した写真でした。
インドに行った友人から噂には聞いていましたが、すごい彫刻ですね(-_-;)
武蔵多摩の国にも「くらやみ祭り」という夜這いの風習がありましたが、ここまであけっぴろげじゃなかったですもんね。。。
お国変われば、伝統・文化(特に「性」に関しては)大きく違うというのを実感した写真でした。
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march_usagi at 2013-05-14 09:26
YAGAさま お久しぶりです。
異文化ということをしみじみ味わった一日でした。
でも、観ているひとたちはみんなあっけらかんとした感じで、かえって健康的な空間でもありました。日本のその手のものは必ず隠されたところにあって、かえって淫靡ですよね。
異文化ということをしみじみ味わった一日でした。
でも、観ているひとたちはみんなあっけらかんとした感じで、かえって健康的な空間でもありました。日本のその手のものは必ず隠されたところにあって、かえって淫靡ですよね。