矢の根
歌舞伎十八番の「矢の根」は、
曽我五郎が仇討にそなえて、ひたすら矢じりを研ぐ所作から幕開きます。
ご存じのとおり、五郎、十郎の兄弟は父の敵を討って、思いを果たすわけでありますが、
それはたぶんに幸運と偶然のもたらした結果でもありました。
ふつう人生はこのようにいかぬものです。
チャンスのないのが自然ともいえる。
もし仇討の時期と機会をうしない、いたずらに齢を重ねたとして、
五郎はどうしたろう?
もくもくと矢を研ぎつづけた‥‥‥と思うのがわたしの答え。
髪は灰色に(禿げちゃったかもしれませんが)、肩と腕の肉はおち、
それでもしわのよった眉間をしかめながら、矢を研いだと思います。
あきらめない‥‥‥思いの九割九分はそれでなる。
そんなふうに、わたしは齢を重ねたいと思っています。
白き夜に思ひのたけの矢を研がむ
曽我五郎の絵でしたか。
いつかの日の為準備を怠らないのを人生訓にされて居られるとか。
普通は無理ですね。
私なんぞ加齢に寄る思い込みが激しく、家内の不興を買う事しばしです。
力強さと柔軟性を併せ持って穏やかな人生を過せたらとは思います。
かくありたいという願望が大部分かもしれません。
「矢の根」は歌舞伎十八番の演目ですが、最近ではなじみが薄くなっているかもしれません。事前の説明が必要でしたね。申し訳ありません。