スサノオのこと
スサノオは不思議な神さまです。
イザナキの産んだ三貴子のひとりということになってはおりますが、お父さんに命じられた海の神さまのお仕事はなんにもいたしません。
暴れまわって天界を追放されたと思ったら、
ヤマタノオロチを退治して一躍ジャパニーズ・ヒーローの筆頭に、
かと思えば、根の国でオオナムチに無理難題吹っかけ、婿いびりを楽しんだりもいたします。
この方の性格はよくわかりません。
一方『出雲風土記』にでてくるスサノオはごく平和な神さまで、岩屋にこもってお昼寝されたり、髪に木の葉を挿して踊られたりしています。
肝腎のオロチ退治は、スサノオでなくオオナムチがしたことになっている。
さて全国どこにでもあるお稲荷さんですが、祀られているのはウカノミタマという神さま‥‥‥『古事記』では、スサノオのお子さまということになっていました。
お稲荷さんは名前のとおり農業の神さまですが、転じて商業やサービス業なんかも受けもって、なかなかの人気者です。
そのお父さんということは、スサノオにも農業の起源がまつわっていることを暗示します。
現に『古事記』にはスサノオがオオゲツヒメを殺し、その遺体から五穀が生じたという記載がありました。
一方、村の鎮守でポピュラーな八幡さま‥‥‥
本来は宇佐の地方神だったようですが、いつか主神がホンダワケ=応神天皇となり、それを神功皇后と、宗像三姉妹と呼ばれる姫神たちがサポートする形になりました。
で、この宗像三姉妹の姫神たちは、高天原の入り口でアマテラスと張りあったときにスサノオの子と認知された方たちでありまして、‥‥‥おや、ここにもスサノオの影が‥‥‥。
浜の砂子ほどあるこの国の神社ですが、数では稲荷と八幡とがトップを分け合っています。
この両社に宗像三神と、スサノオ直系の牛頭天王系を加えるとなんと71,000社‥‥‥神明社などアマテラス系18,000社の4倍に達します。(『すぐわかる日本の神々』鎌田東二より)
ごぞんじのように国家神道は、伊勢の皇大神宮=アマテラスを頂点とした権威構造のうえに成りたっています。
にもかかわらず、一般ピープルに人気があるのは、アマテラスよりスサノオに近いお稲荷さんや八幡さま‥‥‥どうにも不思議なことが起きています。
民俗学の松前健さんによりますと、スサノオはオオナムチとともにもともと土着の神であったものが、出雲の信仰体系が大和朝廷の体系に組みこまれていく過程において、双方を仲立ちし、結びつける媒体として活用された、ということでした。
とらえどころのないスサノオの性格も、いくつもの神格や伝承、役割が、ひとつの器に流しこまれた結果だとすれば納得がいきます。
それはある意味で、スサノオが高天原の神々より古い神であったということを暗示する。
太古の信仰の底流に、スサノオはいたのかもしれません。
一方でスサノオは、熊野の海人の守り神であったという説もあります。
それは蓬莱のかなたから福をもって訪れる「まれびと」の姿にも重なる‥‥‥これまたうなずける気がいたします。